*Kstyle MYDAILY |2013年07月28日16時09分 Vol.2 ― 故キム・ジョンハク監督は出演料を踏み倒していない(特別寄稿) 写真共同取材団 キム・ジョンハクは出演料を踏み倒していない SBSドラマ「シンイ-信義-」は、キム・ジョンハク監督が演出者として参加した有限会社の作品だ。まだ、捜査が進行中であるため、正確な経緯を知ることはできないが、キム・ジョンハク監督はこの作品において、法的にスタッフや出演者の未払い賃金の責任を負う理由は一切ないというのが筆者の考えである。それは、有限会社という新しい形態の制作システムが、法的に保障してくれた安全装置であるためだ。この作品で彼は演出料をもらって、制作に参加したディレクターの資格にすぎない。脚本家や出演者と同様に、賃金をもらって制作に参加した演出者として、自身の演出料さえ確保できれば良いことだ。しかし、一生を堅気な性格の監督でありながら、妥協を知らない制作者として生きてきた彼に、同僚役者の出演料とスタッフたちの賃金未払いは耐えられない厳しい自責と挫折を与えただろう。そして、一生を、ドラマ以外のことは考えずに仕事だけに捧げて、これまでに数多くのヒット作を残したにもかかわらず、同僚たちの賃金を横領した存在になってしまった自分がとてもみじめに感じられたはずだ。彼は、コシテル(考試院:各種国家試験を受ける全国の受験生たちが集まって勉強できるように作った長期宿泊施設)の狭い小部屋で考え続けただろう。「僕の生はどこから間違ったのだろうか?ドラマしか知らずに、頑張ってきた僕になぜこんなことが起こったのだろう?」横領の疑いで検察の捜査を受けたキム・ジョンハク監督は、今まで自身を支えてきたドラマの制作者、または監督としてのアイデンティティを喪失して、深刻なアノミー現象(人々の欲求、行為の無規制状態、急激な社会変動に伴う社会規範の動揺や崩壊によって生じる状態)を経験したのだろう。そして結局、彼はコシテルの小さな部屋で寂しく死んでいった。 深刻な制作費配分の不均衡 一般的に制作と言えば、その過程を3段階に分けるというのはよく知られている。その3段階とは、「プリプロダクション(Pre production)」と「プロダクション(Production)」、そして「ポストプロダクション(Post Production)」だ。このように分ける理由は、お金のためである。ドラマは文化であると同時に産業だ。人生と愛を描いているという点から確かに芸術の一部分だが、もう一方では資金を投資して元金を回収し、収益を発生させる必要があるという資本主義の産業論理が確かに動作しているわけだ。私たちが制作の全過程をこのように3段階に分ける理由は、事業的な側面で制作予算が均等に配分され、執行されたのかを調べるために必要だからだ。「プリプロダクション」に投入される人材である脚本家、監督、俳優たちに支払われるお金を“上位ラインの費用”という。そして撮影、照明、音響、技術、美術などの「プロダクション」と、編集などの「ポストプロダクション」に投入される人材に支給されるお金を“サブラインの費用”という。この2つの項目に全体予算が適切なバランスで配分された際に、私たちは制作会社の安定的な成長とドラマ産業のバランスの取れた発展を期待できる。問題は韓国のドラマ産業の場合、上位ラインの費用が非常に高く、その中でも俳優部門に投入される費用が高すぎるということだ。 史上最高の出演料を更新した「太王四神記」 2008年、ペ・ヨンジュンはMBC「太王四神記」に出演し、1話当たり2億5千万ウォン(約2千2百万円)が支給されたという。確認されてはいないが、出演料として1億ウォン(約9百万円)、資本参加によって1億5千万ウォン(約1千4百万円)程度の出演料を受けたという。「太王四神記」がMBCから支給された制作費は、1話につき2億ウォン(約1千8百万円)台だと知られている。結局、放送局から支給された制作費を主人公1人に全部つぎ込んでも足りない状況だったのだ。ところが、このような事例はたくさんある。2007年5月4日から7月3日まで、KBS 2TVで放送されたミニシリーズ「花いちもんめ」は、ユン・ソンヒ脚本家、チ・ヨンス演出家がタッグを組み、俳優チャ・テヒョンとカン・ヘジョンが主役として出演したが、この4人に支給されたお金は制作費の100%だった。上位ラインの費用が100%を超えてしまったのだ。結局、制作会社が損失負担を引き受けるか、支給する能力がなければ、スタッフや脇役の俳優の賃金が未払いにならざるを得ない構造となっているのだ。 制作費配分の不均衡が原因 今の文化産業分野に進出する大卒の新入社員の場合、初任給が100万ウォン(約9万円)程度だ。1話当たり2億5千万ウォンずつ、週2話の放送だから1週当たり5億ウォン(約4千5百万円)、つまり月20億ウォン(約1億8千万円)を稼ぐ主人公を見た制作会社の新人プロデューサーはどう感じるのか?彼は自分より2千倍も多いお金を持っていく主人公を見ながら、あり得ることと納得できるのだろうか?このような極端な相対的剥奪感の中で、才能のある若者が文化産業の従事者として働く理由を見つけることはできるだろうか?上位ラインに偏っている制作費は、サブライン従事者たちの生活を締め付けている。しかも、賃金を受け取っていない状況から生活に苦しんで、実力のある人は残っていない。結局、制作費の不均衡は、当然サブラインの質的な低下をもたらす。技術を担当するスタッフ部門の質的低下は、作品の完成度の低下につながり、超過した制作コストは賃金の未払い、制作会社の経営悪化、連鎖倒産、映像産業の低迷へとつながっていく。 役者の出演料の上昇、産業規模に比べて高すぎる 2008年12月1日、韓国ドラマプロデューサー協会は、高額の出演料がドラマの危機を招いたという認識から「テレビドラマの危機と出演料の正常化」というテーマでセミナーを開催した。同セミナーで提示された資料によると、ここ10年間の主役級俳優の出演料は20倍以上にも膨れ上がっていた。今は主役級の俳優の場合、1話当たり5千万ウォン(約450万円)から7千万ウォン(約630万円)程度が支給されている。脇役級の俳優も状況は同じだ。有名になりそうだとか、人気を得そうな場合であれば、すぐに出演料は1千万ウォン(約90万円)を超えてしまう。韓国の外注制作の場合だと、平均的に全制作費の60%は出演料であり、15%は脚本家費用として投入される。 このような状況から、実力のある外部監督やプロデューサーは立場がなくなり、実力のあるカメラマンや照明監督、美術監督、音楽監督も就かず、撮影機材も安心して使うことができない。日本の場合は、出演料が全制作費の20~30%程度だ。また、脚本家費用は3%を超えない程度だ。トップスター級の出演者の契約料の割合も、全制作費の10%を超えていない。次は、日本と米国の全制作費用と出演料の割合を比較したものだ。 放送市場の規模から見ると、日本は韓国の6倍程度であり、広告市場の規模は10倍程度となる。報酬的に見積もっても、韓国の俳優の出演料は日本の6分の1程度が適正な水準だ。ところが、現在韓国の主役級俳優の出演料は日本の約2倍だ。それにもかかわらず、韓国の芸能人の70%の年間所得は1千万ウォン以下であり、月平均所得が80万ウォン(約7万円)にしかならない芸能人が2400人に達するという事実は、ドラマ産業のすべての付加価値が極めて少数の人たちに、しかもトップスター級の俳優という特定の職業群の人たちに独占されていることを証明している。この数値は、今日の韓国ドラマ産業が抱えている問題が、ある個人の問題や特定組織の問題ではなく、構造的な問題だということを示している。 総合編成チャンネルの発足により、市場環境はよくなったのか? メディア法改正と総合編成チャンネルの発足は、このような脈絡から理解すべきだ。プラットフォームが増えれば、メディア産業の道が少し開けるというのが、総合編成チャンネル発足時の論理だった。ところが、総合編成チャンネルの発足によってドラマを放送するチャンネルが2倍以上増えたにもかかわらず、外注制作会社の状況はさらに悪化している。その理由は、総合編成チャンネルが地上波に対抗するために、過剰投資をしながら、主役級の俳優の出演料を以前よりも引き上げたからだ。制作費は地上波より少なく支給されているのに、俳優の出演料はより高くなったわけだ。今やJTBCを除いた総合編成チャンネルは、ドラマの制作を諦めた。チャンネルは増えたが、ドラマ外注市場はさらに悪化してしまったのだ。イ・ミョンバク政権における代表的な番組制作の失敗事例だと言えるだろう。 ソン・ジュンギ教授 KBS在籍中に「うちの町の村長さん」(1992)を通じてドラマ演出家としてデビューし、「ご飯を焦がす女」(1994)、「隠れた絵探し」(1994)を演出した後、SBSに移籍。「オギ叔母さん」(1996年百想(ペクサン)芸術大賞・演出賞)、「カタツムリの愛 ~4色物語~」(1998年百想芸術大賞・作品賞)、「ウンシリ」(1998年韓国放送プロデューサー協会・今月のプロデューサー賞)などを演出した。最近では、2007年に“家庭の月”特集「私たちを幸せにするいくつかの質問」を演出し、韓国仏教・言論文化賞を受賞した。現在、東亜(トンア)放送芸術大学のコンテンツ学部長として在職している。 元記事配信日時 : 2013年07月24日11時30分 記者 : ソン・ジュンギ東亜放送大学教授
by joonkoala
| 2013-07-31 05:39
| 韓国
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