*朝鮮日報 2012/02/12 05:23 【コラム】「折れた矢」のブーメラン 魚秀雄(オ・スウン)文化部次長 昌原地裁の裁判長を務める李政烈(イ・ジョンリョル)氏は、映画『折れた矢』の中で「標的」となった人物の一人だ。ボーガン・テロ事件のきっかけとなった金明浩(キム・ミョンホ)元成均館大教授の再任用審査無効訴訟の控訴審で、李氏は裁判長を務め、金元教授敗訴の判決を下した。李裁判長は同映画の公開を機に高まった自らへの非難に対し、裁判所内部のネットワーク掲示板を通じて激しい語調で反論したが、その中に注目すべき文言があった。それは「主観的真実」という言葉だ。李裁判長は「目的に見合った“主観的真実”を前面に出し、虚偽にまみれた謀略を使う集団は、毒入りの果実を自ら収穫せよ」と書き込んだ。 これはまさしくアイロニーだ。「カカセッキ(『閣下〈大統領〉』、卑語の『セッキ〈野郎〉』と『長崎』をかけた造語)・チャンポン」などの言葉を駆使し、李明博(イ・ミョンバク)大統領への嫌悪をあらわにした反MB(李大統領のイニシャル)陣営の中で、李裁判長はスター的存在だったはずだ。ところがこの映画で李裁判長は、同じイデオロギーの賛同者から逆に攻撃を受けている。これはある意味気の毒ではあるが、そのブーメランはいずれにしても李裁判長が受けざるを得ないものだった。しかし、このコラムで取り上げたいテーマは別のところにある。それは、李裁判長が言う「主観的真実」だ。 米国のアル・ゴア元副大統領は2007年にノーベル平和賞を受賞したが、これに大きく貢献したドキュメンタリー映画「不都合な真実」は、最近になって「不親切な真実」と化している。この映画が訴えた「地球温暖化への警告」が、実は事実に反する内容であることが明らかになったからだ。2010年に英国の裁判所は「この映画が取り扱った地球温暖化に関するテーマには九つの誤りがあり、そのほとんどはゴア氏の考え方を後押しするために誇張されたものだ」との判決を下した。例えば、映画では「65万年間にわたる二酸化炭素の増加と温度変化のグラフが完全に一致する」と主張したが、実際はそうではなかった。また「北極海の氷が減少し、多くのホッキョクグマが氷を求めて泳ぐ最中に海におぼれて死んでいる」と説明するシーンについて、裁判長は「強風に飛ばされて海に転落し、溺れて死んだ4頭のホッキョクグマが発見されたに過ぎない」とした。ドキュメンタリー映画がこの程度のレベルだから、最初から劇画として制作された『折れた矢』の真実など、最初から議論に値しないだろう。『折れた矢』をきっかけに司法が反省すべきという声には同意するが、この映画で示された「事実」が果たして公正かつ客観的に取捨選択されたものかという判断は別問題だ。 自分は客観的だとかたくなに信じる人は認めたくないだろうが、われわれは「選択的知覚」の中で生活している。つまり「信じたいことだけを信じ、信じたくないことは最初から考えの外に追いやっている」ということだ。米国のジャーナリスト、ファーハド・マンジョー氏が執筆した『True Enough』(韓訳『利己的な真実』)という本には、上記の「主観的事実」や「不親切な真実」などと相通じる表現や内容が盛り込まれている。マンジョー氏は著書で「ケネディ大統領暗殺の背後関係」「9・11テロ陰謀論」「ジョージ・ブッシュ氏が勝利した大統領選挙捏造(ねつぞう)説」など、一つの事実に対して米国の世論が分かれた複数のケースを挙げ「米国社会で一般的な信頼関係は徐々に低下し、自分たちだけが信じ合う社会に分裂している」と主張した。 「利己的な真実」は共同体の無形資産を食いつぶす。今や韓国社会の全ての領域で、このような「利己的な真実」や「選択的知覚」は急速に拡大している。先日、作家・朴婉緒(パク ワンソ)氏の全集出版記念パーティーに出席したが、そこで会った作家の殷熙耕(ウン・ヒギョン)氏は、すでに故人となった朴氏について「全てを知っているようでありながら、いつも慎重に物事を疑う、作家としての態度に深い感銘を受けた」と振り返った。「事実」というものは自分自身から、あるいはわれわれからまず従うべき美徳だ。 魚秀雄(オ・スウン)文化部次長 朝鮮日報/朝鮮日報日本語版
by joonkoala
| 2012-02-13 07:36
| 韓国映画
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