*Yahoo!ニュース 「ナッツリターン」に透ける、韓国財閥の宿痾 東洋経済オンライン 12月16日(火)6時0分配信 12月12日、報道陣の前で謝罪する大韓航空の趙顕娥・前副社長(写真:Lee Jae-Won/アフロ) 韓国のナショナルフラッグ・キャリア、大韓航空が揺れている。同社の趙顕娥(チョ・ヒョナ)前副社長が自社便に搭乗中、ファーストクラスで出されたナッツの出し方に不満を述べ、滑走路へ向かう途中の飛行機を戻させ、客室責任者を機内から降ろさせた、いわゆる「ナッツリターン」事件だ。 趙顕娥氏は、大韓航空を代表企業とする韓進(ハンジン)グループの趙亮鎬(チョ・ヤンホ)会長の長女。同グループの創業者である故・趙重勲氏からすれば3代目に当たる。ナッツの出し方ぐらいで激高し、乗務員を降機させたということで、「財閥企業の傲慢さが出た」「一族経営で楽に昇進させ、苦労を知らない」といった批判が集中。結局、趙顕娥氏は副社長の職はもとより、同グループ内のすべての役職から身を引かざるを得なくなった。 ■ 起こるべくして起きた事件 趙顕娥氏は1974年生まれ。1999年に米コーネル大学のホテル経営学科を卒業後、大韓航空ホテル免税事業本部に入社し、同社でのキャリアを始めている。2002年には同ホテル機販事業本部機内販売チーム長、2007年に機内食事業本部本部長として常務に昇格。2010年に専務を経て、副社長となった。 エリートコースをひた走ってきた感のある彼女だが、これまでどのような評価を得ていたのか。「今回の事件のように、すぐに激高する女性と財界ではよく言われてきた」(韓国紙経済部記者)。大韓航空の社員の中にも「起こるべくして起きたと思う社員も少なくはない」(同)。 とはいえ、自社便に搭乗中、しかもファーストクラスで大声で騒ぎ、社員を降機させるようなことは、少なくとも日本の航空会社ではないだろう。ある日系航空会社OBは「客室乗務員のサービスでおかしいと思ったら、降りた後に会社のラインを経て注意したり、別の場所でこっそりと注意するのが普通。搭乗客の前で激しく怒ることはやってはいけないこと」と言う。 大韓航空は日本でもよく知られた航空会社でもあり、今回の事件は日本でも大きな話題になった。ただ、韓国では日本とは違った視点で問題にされている。 それは、韓国で根強い財閥企業のあり方、という側面だ。今回の趙顕娥氏の行動は傲慢、横柄さばかりが目に付く。そんな趙氏の行動こそ、「財閥の傲慢さ」に直結しているととらえられている。 韓国経済における財閥の存在はとてつもなく重い。よくも悪くも韓国経済を牽引する存在だ。韓国を代表するサムスン電子の株式時価総額が、韓国証券取引所全体の時価総額の2割から3割を占めるという一例だけをとってみても、それはよくわかる。また、入社希望ランキングでも財閥グループが上位を占めるなど、国民も財閥なしでは経済が回らないことをよくわかっている。 だが、そんな財閥にとって、後継者問題は実に大きな悩みでもある。大韓航空のように、韓国の主たる財閥企業は3代目の時代を迎えている。彼らが優れた経営者であればよいが、そうでない場合、その扱いが頭痛の種なのだ。 ■ 後継者問題が深刻な韓国財閥 大韓航空でも、趙顕娥氏には弟の趙源泰(チョ・ウォンテ)氏(大韓航空専務)、妹の顯?(チョ・ヒョンミン)氏(同)がいるが、彼らも一時、醜聞を起こしたことがある。源泰氏は2005年、自動車を運転中に70代のおばあさんに暴言どころか暴力まで振るい、検挙されたことがある。また、市民団体に向かって聞くに堪えない暴言を吐いたこともある。 顯?氏も、大韓航空子会社でLCC(格安航空会社)のジンエアー乗務員が着用する制服に関して旅行業関係者がツイッターに書き込んだ内容にかみつき、「それは名誉毀損だ」とネット上で発言したことがある。その内容は、「ジンエアーのカジュアルな制服の丈が少し短く、荷物を上の棚に上げるときに乗務員のお腹が見えるのが気になる」といったものだったが、それをもって「名誉毀損うんぬんという言い出すのはやり過ぎ」との批判を受けた。 趙顕娥氏の今回の行動について、実際に降機させられた責任者が韓国メディアのインタビューに応じ、「趙氏が責任者と女性乗務員をひざまずかせ、侮辱する言葉を浴びせたうえ、マニュアルの入ったケースの角で何回も責任者の手をたたき、傷が残った」と主張した。さらに趙氏は機長室の入り口まで責任者を押しやり、「すぐに飛行機を止めなさい。出発できないようにしてやる」とすごんだという。 さらに、責任者が帰国した後、大韓航空社員の5~6人が連日自宅を訪ね、「責任者がマニュアルを熟知していなかったために趙氏が怒ったが、侮辱するような言葉はなく、自らの意思で飛行機を降りた」と証言するよう要求したと発言。これに対し趙顕娥氏は、「初耳」と答えているという。 責任者のこのような発言が事実であれば、あまりにも傲慢だ。また、そんな経営者を擁護するような社員の行動にも、韓国国民は「財閥の愚かしさ」と眉をひそめている。創業者一族を“神”のように考え、その僕(しもべ)として創業者一族の保護に回るのは、何も大韓航空だけではないからだ。 ■ 財閥の欠点は結局治らない? 「財閥の愚かしさ」を感じることは、韓国社会ではあまりにも多い。特にこの1、2年、財閥グループの子息が道楽のような事業を開始し、それが同種事業を行う中小企業を圧迫しているという批判が高まった。たとえば、サムスングループの李健煕会長の一族が製パン・製菓事業やコーヒーショップを始めたことがあったが、これには「街の零細製パン業者を圧迫する」として強い批判を浴びたことがある。 歴代の韓国政権は中小企業育成に力を入れてきたが、効果があったかは言いがたい。財閥による道楽のような事業参入については規制を行ったこともあり、今ではなくなった。だが、有望な中小企業があれば、取引をしながら力を育てていくという発想が韓国企業にはない。資金力にモノを言わせ、すぐに買収してしまう。だから、中小企業は育たず、ましてや大企業と零細企業とウィンウィンの関係をつくることもほとんどないのが実状だ。 日本でもそうだが、韓国でも「3代目が会社を潰す」という言葉は人口に膾炙している。サムスン電子や現代自動車をはじめ、相次いで代替わりする時期を迎え、財閥企業のあり方がなおさら注目されている。とはいえ、「結局何も変わらない。財閥だから、趙顕娥氏も1、2年後には復帰するはずだ」(前出の韓国紙記者)。そう思われるのも、韓国財閥の現実なのだろう。 福田 恵介
by joonkoala
| 2014-12-16 21:32
| 韓国
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